31年

大したことはなにもない人生を振り返るためのメモ

故郷の話

私の生まれ育った所は、おもちゃみたいな小さな観覧車が見下ろす小さな街。レンガの元工場や大きな蔵が立ち並び、観光地にするほどの派手さはないが、どことなくハイカラで文化的でとても魅力的な街だ。
この土地の人間は大抵この土地を熱狂的に愛している。
一年に一度のお祭りでは中心部のほとんどが交通止めになり道のあちらこちらに無数の櫓が組まれ、それを囲んでこの街の人間しか踊れない踊りを踊る。踊ってはまた別の輪に飛び込んだり離れたり、踊りながら歌いながら恋しい人がいないか視界を探る。
街全体ですれ違えないほどの人が牛歩よろしく行軍する。全部地元の人間だ。
スイミーみたいに身を寄せ合って街全体、路地という路地に人が詰まり大きな生き物のように繋がる、あの熱狂は筆舌に尽くしがたい。
友人の多くは県立高校から県内の大学へ進学し県内で就職した。都内や地方の大学へ進学した人も、結果的になんとはなしに地元に吸い寄せられていく。
多くの人間があの街に留まる努力をするなか、私はあの街から無意識的に遠のいた。あの土地に郷愁こそあれど、熱狂することはできなかったのだ。
地元が嫌いなわけでも特別東京が好きなわけでもない。ただ、あの街にずっといる自分の未来が見えなかったし、それは今でも見えない。
ではどの街で最期を迎えるのだろうか。今住む街でもあの街でもない。どこが私の故郷になるんだろうか。旅はまだまだ続きそうだ。